応用生物プロセス学講座 > 研究内容 研究分野酵素や微生物細胞の触媒機能を利用し、医薬品、香料、機能性食品素材などの有用物質を高効率で生産するバイオプロセスの研究開発を行う。 研究テーマ
研究の狙い
グランドデザイン私どもの研究室では、新しい(微)生物酵素触媒を探索し、その機能・諸性質を解明するとともに、それらに遺伝子工学的増幅や蛋白質工学的強化、ハイブリッド化などの改良を加え、新しくより効率的なバイオプロセスをデザインしようと考えています。 最近のトピックス不斉還元バイオプロセスによる光学活性アルコールの生産医薬品や農薬中間体として有用な光学活性アルコールを工業的に生産する画期的な不斉バイオ触媒の開発に成功しました。これはRhodococcus(旧Corynebacterium sp.)細菌由来のフェニルアセトアルデヒド還元酵素(PAR)とLeifsonia由来のアルコール脱水素酵素の大腸菌の遺伝子組換え体をバイオ触媒として利用するものです。各種光学活性アルコールの(R)-体, (S)-体を高い光学純度かつ高収率で合成できます。 不斉還元の技術は名古屋大学の野依教授らによる不斉ルテニウム触媒が有名で、その成果が2001年度のノーベル化学賞の対象となりました。私どもの方法は、こうした金属触媒よりも一層優れた生産性と光学純度を示します。またルテニウムのような貴金属を使用せず触媒の調製が容易で、常温・常圧の反応が可能です。一般に精密化学品の合成はE-ファクター(副生成物と目的物質の重量比)が高いのですが、バイオ触媒法はE-ファクターを著しく低減する環境に優しい生産法です。グリーン・サステイナブル・ケミストリー(GSC:持続的社会のための化学)の視点から高い評価を受けています。またこうした研究を通して、次のようなバイオプロセスの基盤技術の開発を行っています。
不斉酸化バイオプロセスによる光学活性エポキシドの生産エポキシ化合物は炭素および酸素原子からなる三員環構造を持ち、各種求核試薬と容易に反応・開裂し修飾アルコール等へと変換されます。この高い反応性ゆえに各種化合物の合成中間体として利用されており、特に光学活性なエポキシ化合物は様々な医農薬中間体や香料、機能性高分子材料として用いられる重要化合物です。これまでに、化学的手法による光学活性エポキシ化合物の合成法が研究されていますが、それらは大きく分けて1)アルケンの立体選択的酸化 2))ラセミ体エポキシ化合物の光学分割 の2つの手法に分類されます。前者としては香月・シャープレス不斉エポキシ化法やMn-サレン錯体法が、後者としてはCo-サレン錯体による光学分割などが有名です。 一方、酵素触媒を用いるバイオプロセス法では、cytochrome P-450、chloroperoxidase (CPO)、alkene monooxygenase (AMO)、toluene monooxygenase (TMO)、styrene monooxygenase (SMO)など様々な酵素がこの反応に関与することが明らかとなっています。我々はスチレン資化性菌Rhodococcus sp. ST-10 からRhSMO遺伝子を取得し、RhSMO-LSADHシステムによる光学活性エポキシ化合物生産バイオプロセスの構築を試みました(図)。一般に生成物であるエポキシ化合物は不安定なものが多く、水相中ではジオールなどへの自発的分解が起きやすいため、有機溶媒-水二相系反応を用いて反応系の最適化を行いました。有機溶媒相は生産物を速やかに回収すると同時に、基質のリザーバとしての機能も果たします。各種反応条件(有機溶媒、2-プロパノール濃度、基質濃度)の最適化後、200 mM のスチレンを基質として変換反応を行った結果、171.6 mM (変換率85.8%)の(S)-スチレンオキシド(99.8% ee)生産を達成しました。さらに、2-フルオロスチレンをはじめとする各種スチレン誘導体やtrans- -スチレン、インデンなどの二置換アルケン、1-ヘキセンなどの直鎖アルケン類をからも光学活性なエポキシ化合物生産を確認しています。特にRhSMOは、既知のSMOとは異なり、比較的不活性な直鎖アルケン類からのエポキシアルケンの生産が可能です。 メタゲノムからの効率的な有用酵素遺伝子の探索メタゲノミクスは、主に腸内細菌叢や海水中の微生物群などの調査を行うために用いられることが多いですが、 産業利用の点からは未知の酵素遺伝子や新しい抗生物質などを合成する遺伝子群が注目されています。 特に、新規酵素遺伝子や既知酵素のホモログ遺伝子を取得する技術としては極めて有力な探索技術といえます。我々は、ターゲット酵素遺伝子を効率的に取得する方法として、 Screening of Gene-specific Amplicons from Metagenomes (S-GAM法)と命名したPCRを基本技術としたメタゲノムからの効率的な酵素遺伝子ライブラリー構築技術を考案し(図)、S-GAM法をメタゲノムからの汎用的な有用酵素遺伝子単離技術として展開しています。その結果、実用レベルに供し得る各種有用生体触媒の創製に成功しました。 具体例として、キラルアルコールの合成に有用な還元酵素であるLeifsonia sp.S749由来アルコール脱水素酵素(LSADH; short-chain dehydrogenase/reductase family)にS-GAM法を適用した例を示します。この場合、メタゲノムの由来を一般土壌から高温で発酵しているバーク(樹皮)堆肥に変更することにより、LSADHのホモログに加え、さまざまな新規adh遺伝子(LSADHに対する相同性が73-75%, 50-63%, 36-44%, 17%以下, Hladhと命名)を効率的に多数取得することができました。解析した約2,000クローン中、その60%がADHポジティブであり、その中の40種のHLADHについて酵素化学的な性質の解析を行いました。その結果、極性有機溶媒中で高い活性を有する酵素、基質特異性が明らかにLSADHと異なる酵素など多様な機能を示す優れた酵素が取得でき、当該酵素ライブラリーが光学活性アルコール生産用酵素触媒のスクリーニングに極めて有用であることが明らかとなりました。特にHLADH-021酵素(LSADHとの相同性は55%)は各種ケトンの不斉還元反応に最適であり、LSADHを比活性、基質特異性などで凌駕しています。
ラッカーゼを用いる機能性食品素材の生産我々の研究グループでは、市販のラッカーゼが、酸素と没食子酸の存在下で茶カテキンから2つのベンゾトロポロン骨格を有する化合物、即ちepitheaflagallin(5)とepitheaflagallin 3-O-gallate(6)(図)を合成できることを初めて明らかにしました。これらの化合物は、脂質の消化・吸収を穏やかに抑制する可能性があり、抗肥満の機能性食品素材として期待できます。またEGCg(4)及びepitheaflagallin(5)は膵リパーゼ阻害効果を示さなかったことから、benzotropolone骨格と3-O-gallate構造が膵リパーゼ阻害には必要であることが示唆されました。Epitheaflagallin類には、膵リパーゼ阻害の他にもさまざまな生理機能を現在までに認めており、新たな機能性品素材として期待しています。
主な研究のテーマの説明 |
|
||||||||||||||||||
本ページに関するお問い合わせは まで Last update 2010.7.30 |