Research
改変型HDL点眼剤の開発
HDLは多様な生体保護作用(抗炎症、抗酸化、病的血管新生抑制など)を示します。これらの生態保護作用は、血管新生型加齢黄斑変性(neovasucular age-related macular degeneration, nAMD)の病態メカニズムと良く対抗します。一方でnAMDに対する臨床上有効な点眼剤は2024年の時点で、存在しません。これらのことを考慮して、私たちは遺伝子工学改変により角膜吸収促進型HDLを作製し、これをnAMDモデルマウスに点眼すると、有意な治療効果が得られることを見いだしました。同時にこの改変型HDLのHDL生物活性は増強されることもわかりました。現在私たちは、多様な戦略でさらなる角膜吸収促進を目指しています。
光線力学療法のための改変型HDLドラッグキャリアの開発
光線力学療法(photodynamic theray, PDT)は、かつてnAMDの第一選択治療法でしたが、抗VEGF薬の登場以後、ほとんど使われなくなりました。これは現状のPDTには正常網膜の光損傷という高いリスクが存在することと、この光損傷を最小化するために高度なレーザー照射技術が必要なことが原因です。これらの欠点は、いずれもPDT薬、つまりベルテポルフィンのリポソーム製剤(Visudyne)のDDS性能不足によります。私たちは、これまで点眼剤として開発してきた改変型HDLが、病変部位選択的ベルテポルフィン輸送という点で、リポソームよりすぐれることを見いだしました。この結果、ベルテポルフィンを搭載させた改変型HDLを用いると、網膜全体へのレーザー照射という簡便な条件で、顕著に改善されたPDT効果が得られ、かつ明確な正常網膜の光傷害も見られませんでした。現在、この改変型HDLの構造最適化を行っています。
ゼブラフィッシュを用いる改変型HDLの新しいin vivoスクリーニングシステムの開発
ゼブラフィッシュは発生生物学研究での脊椎動物モデルとして利用されてきました。一方で、その大量入手の容易さ、ヒトとの高い生理学的相同性、そして稚魚の光学的透明性から、近年、ドラッグキャリアの全身循環・治療効果を調べるための動物モデルとして注目されています。Huwylerラボ(バーゼル大学)との共同研究を通じて、増強された血管保護作用を有する改変型HDLの新しいin vivoスクリーニングシステムを開発しています。
ドナーアクセプター連結分子を用いる視力回復(科研費「動的エキシトン」)
ドナーアクセプター連結(D-A)分子は、光捕集部位が電子供与部位と電子受容部位に挟まれた光増感剤です。可視光照射下、D-A分子は分子内で長寿命電荷分離状態を生成します。私たちはこの状態を「ナノ電場」として捉え、細胞膜機能の光制御に利用してきました。具体的には、光照射されたD-A分子は、細胞膜の膜電位を減少させ(脱分極)、結果として神経発火させることができます。私たちの網膜にある視神経節細胞では、この膜電位変化による神経発火が視細胞からの視覚情報を脳に伝達するために利用されています。今堀教授(京大)と作田教授(長崎大)のラボで合成された各種D-A分子と私たちの改変型HDLを組み合わせることで、視力回復のための新しい治療法を開発しています。
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