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思考融合

複数人の脳波データを統合して処理をする「集団脳波解析」技術の開発を行い,この技術を利用した新しい応用の可能性を提唱していきます.集団内の構成員が同一の思考状態にある場合,集団脳波解析技術を用いると,例えば集団の注意を惹起する事象の抽出が高精度に可能となります (J.Fan and H.Touyama,2016).この研究はオリジナリティが高く,将来的には社会心理学やマーケティングなどへ応用することを目指しています.

しかしながら,集団内の構成員が同一の思考状態にあることは稀であることを考えると,そのような状況での集団脳波解析についても検討をする必要があります.当研究室では,ある事象に対して集団の何人が注意状態であったかを高精度に推定する技術を開発しています.現時点では主に事象関連電位を対象として研究を進めていますが,自律脳波を対象とすることもできます.集団が視聴する感情コンテンツの内容を,集団の自律脳波を統合することによって推定する問題にも取り組んでいます (G.Cui et al,2023)

以上から,脳波によって高精度に多数決を行うことができる「脳波多数決法」をあらたに提案することができます (K.Fujita and H.Touyama,2017)

  
集団心電図解析

心電図を解析するひとつの手法として,ローレンツプロットが知られています.これによって,個人のストレスや心理的・認知的な負荷をある程度の精度で推定することができます.唐山は,従来は個々人で解析するこの手法を集団に適用する新しいローレンツプロットを考案しました.この「集団ローレンツプロット」によって,その集団の状態を高精度に推定することができ (黒岩ら,2024) ,データの蓄積,さらなる検証とその応用を目指しています.集団脳波解析と併せて,近年,当研究室で力を入れている研究テーマのひとつです.   

  
耳周辺・耳内部脳波

従来の脳波計測では,脳波センサを頭皮に装着する必要があります.しかしながら,頭皮へのセンサ装着は,外観上の問題からも脳波インタフェースの普及を妨げると考えられます.そこで,当研究室では頭皮に脳波センサを装着せずに耳周辺 (伊藤ら,2023) や耳内部にセンサを装着し,頭部脳波と同等のデータが得られるか検証を進めています.世界的にも耳周辺や耳内部の脳波はその計測可能性が複数報告され始めています.   

  
歩行時脳波

当研究室では,ウェアラブルな脳波インタフェースにも関心があり,その可能性について研究を進めています.いわゆるウェアラブルコンピューティングやライフログ技術と融合した新しい研究領域であり,たいへんチャレンジ性の高い研究といえます.従来の脳波計測では,その利用者の身体拘束(自由に動けない,動くことがノイズ(アーティファクト)の原因となり脳波インタフェースの性能を低減する)が問題となっています.例えば歩行時の脳波計測については従来はタブー視されてきましたが,私たちの研究 (F.Lotte et al, 2009) を発端として世界的に研究され始めています.身体運動時の脳波インタフェースが利用可能であるか詳細に調べ,応用を目指します.


脳波バイオメトリクス

脳波の波形には個人差があります.この性質は脳波インタフェースの性能を低減する要因でもありますが,これを逆手にとって,脳波で個人を識別したり認証したりする技術,脳指紋について検討をすることができます.従来の指紋や声紋などとは異なり,秘匿性の高い個人認証(バイオメトリクス)を実現できる可能性があります.考えるだけで認証を受けることができ,認証技術のひとつとして世界的に研究されるようになっています.特に,事象関連電位を用いた脳波個人識別技術は国内外で他には研究されていませんでした.唐山によって初めて事象関連電位の個人識別への応用可能性が検証され,独創性の高い研究と位置づけられます.技術的には課題が多い先端的研究ですが,唐山の解析によると,数十名程度のユーザであれば98%程度の高い精度で脳波による個人識別が可能です.   


ニューロマーケティング

事象関連電位を利用すると,システムのユーザが注意した対象を特定することができます.これを利用して,例えばどのような商品に関心があるのかを定量的に調査することもできそうです.当研究室では,これまでに情報探索時の眼球運動と同時に脳波も計測し,眼球が停留した時刻を手掛かりに脳波解析をすることによって,どのコンテンツに注意したかを推定する手法について検証しています.また,プローブ刺激を用いる二重課題法によって,映像コンテンツへの関心度を調査することも行っています.   

脳情報を計測する手段の中で,脳波計測にも欠点があります.脳波計測では,空間分解能が低く脳内の小領域で何が起こっているかを知ることは困難です.当研究室では,これまでに他大学と共同で機能的磁気共鳴画像法 (fMRI : functional MRI) を用いて精密な脳スキャンの実験を行い,脳情報解読技術について研究を行っています.   


ブレインライフログ

ウェアラブルコンピューティングやユビキタスコンピューティングに関連する技術開発,さらには携帯電話をはじめとするモバイル機器の爆発的な普及により,ライフログと呼ばれる概念が出てきました.Gordon BellらによるMyLifeBitsのように,人生のすべてを記録する,といった概念が提唱されています.("MyLifeBits is a lifetime store of everything.") これに伴い,個人が扱うメディア・データ量も爆発的に増え,これらメディアコンテンツを効率よく多角的に検索する,あるいはこれらに適切な索引を付与する技術が求められています.

そこで,新しい情報検索/索引付与技術のひとつとして,生体情報を利用した手法を提案しています(H.Touyama, 2008).脳波からその人の注意を惹いた写真等を高い精度で推定します.従来のライログのメタデータに「注意」や「関心」というあらたなメタデータを付与できることになります.これらのライフログやウェアラブルコンピューティングと脳波インタフェースを融合する新しいアプリケーションの概念は,当研究室において実現される独創的なものです.  


Brain Computer Interface and Virtual Reality

当研究室では,ヒューマンインタフェースの中でも,脳活動のみで機械を操作する脳波インタフェース技術の普及可能性について検証をしています.ユーザの身体に負担のない非侵襲の脳波計測に焦点を当て,例えば,バーチャルリアリティ技術を利用した没入型映像提示環境にBCIを実装し,両眼立体映像を体験しながら,仮想空間のアバターのリアルタイム操作を実現しています.C.Cruz-Neiraらによって開発されたCAVE型の没入型仮想空間,これを利用した脳波インタフェースは唐山により国内初(世界で2例目)の研究として実現されました(H.Touyama and M.Hirose, 2006; J.Fujisawa et al, 2008)

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筋電インタフェース

筋肉の収縮とともに観測される生体信号「皮膚表面筋電位」を利用したヒューマンインタフェースの開発も行っています.従来のジョイスティックなどに代わる新しいインタフェース技術として検討を進めています.皮膚表面筋電位は,脳波に比べると数値的に大きな信号が得られることなどから,比較的単純なアルゴリズムで高精度のインタフェースを実現することができます.例えば,コンピュータカーソルやVR空間内の仮想物体の操作も可能です.複雑な手の形状を筋電信号のみから推定することもできるため,楽器演奏時の筋電計測を実施し,アミューズメント分野への展開も考えられます.

  
看工連携・ヘルスケア

看護学分野との連携も行っています.本学や他大学の看護分野の学生・教員とも連携して,看護ケアに対する定量的評価を行います.特に,光学式モーションキャプチャを用いて看護ケア時の身体動作を詳細に解析します.また,東洋医学は身体に良い効果をもたらすことが経験的に分かっており,この効果を身体動作を通して定量的に評価しています.

その他にも,電波センサから得られる睡眠時の各種データから睡眠判定を行う研究をしています.電波センサを用いると呼吸や心拍などの生体計測を非接触で行うことができます.ここでは,機械学習によって睡眠の有無や睡眠段階の推定を行います.この成果は企業との共同研究によって,2025年度内には製品化される見込みです.

また,REM睡眠行動障害に関する研究や遷延性意識障害のある高齢者の脳機能計測,機械学習を用いた画像解析による手洗い評価,胃電図に関する研究も行っています.スマート端末による歩数や心拍数等のデータと健康診断データを併せて解析し,地域のヘルスケアに貢献する試みも行っています.   

  
バーチャルリアリティ

ある一定条件を満たすと,オモチャのゴムの手(ラバーハンド)を自分の手と認識する錯覚が生起します.当研究室でも,これまでにこのような「ラバーハンド錯覚」などの心理学研究も行っています.さらに,体外離脱感覚を生起させるような研究も行っています.今後もバーチャルリアリティ技術を取り入れた,身体性や身体所有感に関する研究を推進していく計画です.

人間の全身動作を精密に計測するためのフルボディ・モーションキャプチャシステムを独自に保有しています.これにより,アニメーションの作成をするなど,忠実な人物動作を含むコンテンツを制作することができます.その他にも,臨場感の高い立体映像を観察可能なヘッドマウントディスプレイも有しており,Unity等の開発環境において自作したコンテンツのバーチャルリアリティ体験も可能です.   

  
動物を対象とした研究

近年,動物の生態を調査するなどの目的で動物にセンサを取り付け,そのセンサ情報を解析するバイオロギング研究が活発に行われています.当研究室では,これまでに脳の信号を解析する技術を応用して,イヌの行動様式をリアルタイムで判定するシステムの開発を行っています.

さらに動物の生体計測も実施した経験があります.動物の脳活動や眼球運動を計測し,その心理状態の推定を試みます.動物心理に関する知見と情報システム工学の知識を融合することによって,動物の心理や内面情報を抽出する研究を行っていきます.今後はイヌ以外の動物も対象にして,動物とのコミュニケーションに関する研究を進めたい考えです.   

  
今後 取り組む研究課題

ヒューマンインフォマティクス(人間情報)研究室としては,基礎研究を重視しながら,下記のキーワードで研究を進めたいと考えています [2025年1月1日現在].