超スマート社会を実現するシステム制御

本研究室は,2017年4月発足の研究室で,システム制御工学とその電力・エネルギー,環境やロボティクスへの応用を専門分野としています. システム制御工学とは,工学的な対象(わかりやすい例ではロボット,自動車など)の振る舞いを系統的にデザインする工学分野です.本研究室では,その中でも特に「超スマート社会」と呼ばれる情報,電力,エネルギー,交通,水道,経済などさまざまなネットワークのインターネット(IoT: モノのインターネット)でつなげ,より便利で安心な未来社会を実現するシステム制御の理論と技術を,主要テーマとして取り組んでいます.特に,本研究室では,「超スマート社会」に対して,社会を動かす基盤となる「電力・エネルギー」,私たちを取り巻く「環境」,および社会の主役である「人間・ロボット」の3つの側面からとらえます.さらに,「階層性・ネットワーク性」「データ駆動」「消散性」といった「超スマート社会」の特徴にも着目し,システム制御の理論と技術の確固たる基盤を構築します.


電力・エネルギーシステムの最適化・制御技術

Plug&Play機能に基づく地域エネルギーシステムの制御技術

超スマート社会における地域エネルギーシステムに対して,環境や電力・エネルギー需要の変化に合わせてPlug&Play機能により自動的に調整できる柔軟なシステム制御理論を構築します.特に,地域エネルギーシステムの構成要素(発電設備,蓄電池,負荷,送配電線など)のそれぞれを消散性(エネルギー収支に関する性質)からとらえます.具体的には,再生可能エネルギーや電気自動車の大量導入による配電系統の周波数,電圧への影響の定量化やそれらの制御,商業施設や地域コミュニティにおける充電ステーションの設置や変動型充電価格による地域の余剰電力の活用,複数の地域間での需給バランスなど多面的に検討し,エネルギーシステムのロバストネスやレジリエンスを保証する制御技術を確立します.

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次世代電力系統向けの分散型運用・状態推定システム

脱炭素社会の実現のために,太陽光発電や電気自動車などの機器が利用されています.しかし,多様な機器が電線に接続されることで,電圧などの状態も複雑に変化します.さらに,多様な機器の管理には難しさが存在します.特に管理のために,私たちが持つ情報の全てを外部へ共有することは,プライバシーの点で問題があります.このテーマでは,限られた情報の共有のみで,全体を適切な状態に維持する制御システムや電線の状態推定技術を開発します.

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マルチエネルギーシステムのためのシステム制御

電力は豊かな生活の基盤となるエネルギーの最終形態である一方,カーボンニュートラルなど未来の地球を救う取り組みが希求されています.このことの実現に向けて,再生可能エネルギー(太陽光発電など)やEVを中心とするスマートグリッドを発展させて,ガス,熱,水などのエネルギーも組み込んだマルチエネルギーシステムを適切に運用するためのシステム制御の理論と技術を構築します.特に,人間の生活の場となる建物やそのネットワークに対して,太陽光発電,EVや蓄電池の電力によるヒートポンプ,水素蓄電池との連携,温熱・冷熱による空調制御,照明の点灯制御に加えて,コストの見える化による行動変容まで快適な生活を享受できるための制御・運用技術を開発します.最終的には,実際の建物における実証実験を行い,社会実装への昇華を目指します.

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大規模電力ネットワークの安定性解析・制御技術

太陽光発電や風力発電などの不確定性を有する再生可能エネルギーの大量導入を受けて,電力ネットワークの従来運用技術の限界が指摘されています.再生可能エネルギーの大量導入に対して有効となる電力ネットワークのの解析・制御技術の確立を目指します.特に,データ駆動型の診断技術として,同期位相計測器 (PMU) の計測データに基づき,電力ネットワークの安定性診断や周波数・電圧制御を確立します.

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新たな制御技術を体験できる実験環境の構築

理論的な研究はもちろん大事ですが,そこで開発した新たな技術を現実化し,広く活用できる形にすること,さらには一般に理解できる形にすることも研究者・技術者には求められます.このテーマでは,新技術を体験できるような実験環境を構築します.

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環境システムに対する制御技術

融雪による快適な都市環境のためのシステム制御

北陸地方では冬季の豪雪による生活の麻痺や電力の逼迫は,快適な暮らしを脅かすものとなっています.本テーマでは,街全体や住宅などの小さな単位を含めた配電システムを対象に,よりよい都市環境を考えます.具体的には,ロードヒーティングや温水による融雪,「微気象」による地表付近の温度制御や太陽光発電・EV充放電を活用した効率的なエネルギー運用などに取り組みます.これらを,実際に取得される電力データや気象データを用いた予測シミュレーションによって分析し,未来の都市環境の望ましい姿を提案します.

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ごみ焼却プラントのモデリング・制御技術

ごみ焼却プラントは,超スマート社会を支える重要な大規模システムのひとつです.しかし,その構造は非常に複雑であり,高温の環境下では設置できるセンサやその位置が限られます.さらに,ごみ焼却のプロセスにおいて無数の化学反応が発生するため,プラント全体の振る舞いの予測や制御は簡単ではありません.本テーマでは,企業との共同研究を通じて,ごみ焼却プラントにおける燃焼や水蒸気・NOx(窒素酸化物)の発生といった焼却炉内部の事象に対して,実際のプラントの運転や制御に適した方程式によるモデルを構築し,大規模予測シミュレーション技術の開発に取り組んでいます.

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人間・ロボティクスネットワークに対するシステム制御

ロボット協働による人間の行動変容

少子高齢化やポストコロナの時代には,社会のさまざまな場面でロボットの活用がますます重要になっています.このような社会においては,人とロボットが互いを理解しながら協力して働くことによって,人々の行動や生活のあり方が変化し,より豊かで快適な未来社会につながっていくと考えられます.本テーマでは,商業施設,駅,大学など多くの人が集まる場所におけるロボット導入を想定し,ロボット同士の連携を実現するために,被覆制御や合意制御といったマルチエージェント制御の技術を組み合わせることで,人間行動のメカニズムデザインや搬送システムの最適経路設計の開発を進めています.

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超スマート社会のモデリング・制御のための基礎理論

階層性・ネットワーク性に基づく大規模複雑システムの制御理論

本テーマでは,超スマート社会における社会インフラシステムを異種のネットワークからなる階層的ネットワークシステムとしてモデリングし,大規模システムの制御理論を構築します.具体的には,超スマート社会にあらわれる送配電ネットワーク,交通流ネットワーク,上・下水道ネットワークなどの大規模社会インフラシステムに共通にあらわれる性質は,モノのネットワークを介した「流れ」が階層的に結合する点です.一般にこのような「流れ」は多次元システム(偏微分方程式によって記述される時間,空間など複数の独立変数を持つシステム)として記述されます.本アプローチでは前に書いたような大規模システムを複数の多次元システムが階層的にネットワーク結合をする多次元階層的ネットワークシステムとして見通し良く記述し,その分散協調的なロバスト制御系設計の理論を確立し,超スマート社会におけるサステイナブルな運用に理論的な側面から貢献することを目指します.

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大規模複雑システムのデータ駆動型モデリング・制御

電力・エネルギーシステム(スマートグリッド),人間・ロボットが関わるネットワークや化学プラントのような大規模で複雑なシステムを設計・制御する場合,全体をひとまとめにして集中的に制御することは容易ではありません.そのため,このようなシステムでは,階層性やネットワーク性といった構造的な特徴に基づいて,全体をいくつかのサブシステム(小さな構成要素)に分けて考えることが重要になります. 本テーマでは,このようなシステムを適切に制御するために,時間とともに変化して得られる大量の時系列データ(または限られたデータしか得られない状況)に基づき,階層性やネットワーク性といった視点・構造に着目した機械学習なども盛り込んだ新しいデータ駆動型のモデリングと制御の技術を開発します.特に,超スマート社会における実際のシステムを想定した大規模な予測シミュレーションを実行し,その有効性を検証します.

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消散性に基づく制御系解析・設計

本テーマでは,「大規模複雑システムのデータ駆動型モデリング・制御」で述べたような大規模複雑システムを対象として,各サブシステムのエネルギー収支に関する「消散性」や「受動性」と呼ばれる性質を利用することで,分散・協調的な制御を考えます.本テーマでは,また,「消散性」という性質は,周波数の観点から見ると「周波数特性」という別の概念としても理解することもできます.本研究では,このような異なる視点からの制御系設計も進めています.

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