富山県立大学 工学部 生物工学科 生物有機化学講座

富山県立大学工学部生物工学科生物有機化学講座
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研究内容

1. 天然物全合成を基盤とした生体機能分子の創製

天然物由来の機能性分子を創製する全合成化学は、通常「天然物の構造を作る」ことに到達点が設定されます。複雑な分子構造を構築する学術的意義は高く、不可能とされてきた分子変換を実現する新しい反応・方法・戦略・概念を提供することで、全合成は化学分野を発展させる起爆剤として貢献してきました。一方で、自由自在に分子を操ることができる全合成化学者にとって、人類の公衆衛生や社会生活を向上させる機能性分子の設計と創製は、重要なアウトプットです。成熟期に差し掛かりつつある現代の全合成には、化学分野のみならず、天然物の有効利用を目指した応用科学への貢献が強く求められています。
私たちは、分子構築戦略の開発、構造・機能解析、分子設計を基盤とした相補的な研究体制のもと、天然物の構造を模倣した高性能な生体機能分子の創製を目指します。私たちが得意とする全合成に、計算化学を活用した遷移状態探索、分光学的データの予測、網羅的な配座解析などを組み合わせることで、複雑天然物の効率的合成、構造が明らかにされていない希少天然物の構造決定、構造及び配座活性相関に基づく機能性分子の設計に取り組みます。重要な生物活性を持つにも関わらず研究対象とされていない天然物の有効活用を目指して、計算化学と有機合成化学を基盤としたポスト全合成研究を展開します。

全合成と計算化学

2. 木質バイオマスの構造解析と有用物質への変換

地球温暖化防止の観点から、木材をはじめとする木質バイオマスへの関心が高まっています。木材は有機溶媒にも水にも溶かすことができませんが、イオン液体という特殊な溶媒を用いることにより、大きな成分変化を伴わずに木粉を溶解することができます。イオン液体に溶解した木粉をアセチル化し、HSQC NMRスペクトルを用いて細胞壁成分(リグニン、ヘミセルロース、セルロース)を解析する手法について研究しています。さらに、イオン液体に溶かした細胞壁成分を、酵素や化学処理により有用な物質に変換する研究を行っています。マイクロ波加熱による反応の効率化も行っています。

イオン液体を利用した有用化学品の合成

リグニンは植物細胞壁を固める働きをしており、木質バイオマスの利用の上でも非常に重要な天然高分子化合物です。モノリグノールラジカルのラジカルカップリングによりリグニンが形成されます。アバカやクラウアといった植物のリグニンは、β-O-4構造という特定の構造が多いことが知られています。β-O-4構造は難分解性のリグニンの構造の中でも比較的分解がしやすく、木材のパルプ化やバイオマス変換の際の鍵となる構造です。リグニン中のβ-O-4構造量に影響を与えるモノリグノールの反応性の解明に取り組んでいます。さらに、β-O-4構造のみからなる人工リグニンを独自の方法で合成し、反応機構の解明などに利用しています。

人工リグニンポリマー