研究一覧

シトクロムP450関連テーマ

ヒトは57種類のシトクロムP450遺伝子をもっており、半数はステロイドホルモン、活性型ビタミンD、プロスタグランジン、トロンボキサンなどの生理活性脂質の生合成および代謝に関わるが、残りの半数は薬物および食品中に含まれる生体異物の代謝に関わっている。機能性食品工学講座におけるシトクロムP450関連テーマの概要を以下に示す。

1. 哺乳動物由来ビタミンD3水酸化酵素の構造と機能に関する研究

活性型ビタミンD3の生合成および代謝に関与する4種類の水酸化酵素CYP27A1、CYP27B1、CYP24A1およびCYP2R1の反応機構を明らかにするとともに、有用性ビタミンD3類縁体生産への応用を試みる。これら3種類の酵素のcDNAをそれぞれ大腸菌内(CYP27A1、CYP27B1、CYP24A1)あるいは酵母内(CYP2R1)で発現させ、酵素化学的性質を調べた。CYP27A1およびCYP27B1についてはそれぞれ、CTX患者由来およびくる病患者由来の変異型酵素の性質を詳細に調べることにより、これら酵素の構造と機能に関する多くの知見を得た。CYP24A1は連続的水酸化反応を高頻度で起こすことにより、多くの代謝物を生み出すことがわかったが、ビタミンD3に対する反応特異性において、ヒト由来CYP24A1とラット由来CYP24A1の間に明らかな違いが認められた。ヒト由来CYP24A1については大腸菌内大量発現に成功し、結晶化を試みる予定である。また、くる病との関連が報告されたヒトCYP2R1の酵素学的性質を調べ、ミトコンドリア型ビタミンD3 25位水酸化酵素であるCYP27A1と比較した。その結果、生理的に重要なビタミンD3 25位水酸化酵素はCYP2R1である可能性が高い。また、シイタケなどのきのこ類に多く含まれるビタミンD2に対してはCYP27A1が24位を水酸化するのに対し、CYP2R1は25位を水酸化することがわかり、CYP2R1の重要性が明確になった。

ヒトCYP24A1による活性型ビタミンの代謝

2. ビタミンDによる細胞増殖抑制の作用機構

従来、25-ヒドロキシビタミンD3(25D3)は1α位水酸化酵素CYP27B1により1α,25-ジヒドロキシビタミンD3(1,25D3)に変換され生理作用を示すと考えられてきた。25D3のビタミンD受容体(VDR)に対する親和性は1,25D3の約700分の1だが、血中濃度は1,25D3の約500倍であるため、組織によっては25D3が直接作用している可能性がある。我々は25D3のトリチウムラベル体を用いて、培養細胞内で生成する1,25D3や24,25D3を定量するとともに、種々の遺伝子の発現、細胞増殖に与える影響を調べた。ヒト前立腺由来培養細胞(PZ-HPV-7)を種々の濃度の1,25D3あるいは25D3で数時間–数日間処理し、細胞増殖に与える影響やCYP24A1のmRNA量変化を解析した。VDR核内移行の解析は免疫抗体蛍光法で行った。PZ-HPV-7に25D3(10nM)を作用させたところ、CYP24A1mRNA量は最大で1000倍に増加したが、この時、細胞内に存在する1,25D3の濃度は0.1nM程度であった。0.1nMの1,25D3による誘導倍率は100倍に満たないため、10nMの25D3による誘導の大部分は25D3自身によるものと推測される。VDRの核内移行、細胞増殖抑制作用についても同様に25D3が直接VDRに結合し作用する可能性が示唆された。現在、CYP27B1ノックアウトマウスを用いて25D3の作用機構を解析している。

3. ビタミンD誘導体の代謝

我々はこれまでに、A環ジアステレオマー、ヘキサフルオロ体、20-エピ体、2α- or 2β-(3-hydroxy-propoxy )体、19-ノル体など、多くのビタミンD誘導体の代謝についてヒトCYP24A1とラットCYP24A1の代謝様式を比較した。その結果、これらビタミンD 誘導体の構造の違いにより、代謝の受けやすさおよび代謝様式が大きく異なるとともに、すべての誘導体において、ヒト・ラット間の種差が認められた。さまざまな薬物の代謝において動物種差があることは周知の事実であり、医薬品の開発において実験動物からヒト体内での代謝を予測することを困難にしている。CYP24A1は薬物代謝型のシトクロムP450ではないが、反応特異性が動物種によって異なっているため、動物試験だけでなくヒトCYP24A1を用いた代謝研究が必要である。また、ビタミンD誘導体の中にはCYP24A1以外のP450やP450以外の酵素による代謝が重要な場合がある。22位が酸素に置換されたビタミンD誘導体(OCT)の代謝には肝臓や小腸に存在し薬物代謝において最も重要なシトクロムP450分子種であるCYP3A4の寄与が大きい。


4. 哺乳動物由来ミクロソーム型シトクロムP450の構造と機能に関する研究

(i) ヒト体内におけるダイオキシンの代謝予測

ヒト由来シトクロムP450、CYP1A1, 1A2, 1B1, 2A6, 2B6, 2C8, 2C9, 2C18, 2C19, 2D6, 2E1, 3A4をそれぞれ発現する酵母のミクロソーム画分、ヒト肝ミクロソーム画分(市販)およびUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)発現系(昆虫細胞-バキュロウイルス系)を用いてダイオキシン類に対する抱合活性を調べた。その結果、毒性の高いダイオキシン類は主にCYP1A2によって水酸化された後、UGT2B7, 1A1および1A9を中心とする複数のUGT分子種によるグルクロン酸抱合を受け、無毒化されることが示唆された。しかし、その代謝能には顕著な個人差があり、それは肝臓中のCYP1A2含量の差に起因すると推測される。

(ii) 2,3,7,8-TCDD(ダイオキシン類の中で最も毒性の高いもの)代謝酵素の創製

ダイオキシン類のうち、0~3塩素置換体に対しては複数のP450分子種が代謝能を示したが、ダイオキシン類の中で最も毒性の高い4塩素置換体 2, 3, 7, 8- TCDDに対してはいずれのP450分子種も活性を示さなかった。0~3塩素置換体に対して最も高い活性を示したラット由来CYP1A1を土台として部位特異的変異導入により複数の変異体を作製したところ、4種の変異体F240A、F228A、F319A、およびF385Aにおいて、2,3,7,8-TCDD代謝活性が認められた。放線菌や担子菌等でこれらP450を発現させることができればダイオキシン汚染土壌への応用が期待できる。

(iii) ヒト体内におけるセサミンの代謝予測

セサミンは、抗高血圧作用、抗がん作用をはじめとするさまざまな生理作用を持つため、セサミンを含む多くの健康食品が開発されている。セサミンの抗酸化能が重要な役割を果たしていると考えられるが、セサミン自身は抗酸化能を示さず、体内でP450によって代謝を受けて抗酸化能が高いカテコール体に変換される。しかし、どの分子種で代謝されるのか不明であったため、ヒト由来薬物代謝型P450発現酵母および市販のヒト肝ミクロソームを用いて、セサミンの代謝に関与するP450分子種を調べた。その結果、主要な分子種はCYP2C9であり、次に重要なP450分子種はCYP1A2であることがわかった。また、12種の各UGT分子種によるセサミンモノカテコール体の代謝を調べたところ、UGT2B7が主要分子種であることがわかった。以上の結果から、セサミンは肝臓で主にCYP2C9によりモノカテコール体に変換された後、UGT2B7によりグルクロン酸抱合体に変換され、体外に排泄されると推測される。また、複数の個人由来肝ミクロソームを用いた解析から、セサミンの代謝能および効能における個人差は小さいと考えられる。

5. 放線菌由来ビタミンD水酸化酵素の構造と機能に関する研究

放線菌S.gliseolus由来CYP105A1は、ビタミンD3を水酸化するために進化してきた酵素ではないが、我々は、偶然、この酵素が低いながらもビタミンD3水酸化活性を持つことを発見した。また、大腸菌で大量発現させ、結晶化に成功し、X線結晶構造解析によりその立体構造を明らかにした。次に、立体構造に基づき変異を導入し、2アミノ酸置換により25位水酸化活性を野生型の400倍以上、1α位水酸化活性を100倍以上高めることに成功した。さらに、この変異体(R73V/R84A)を放線菌に導入した菌体反応によって25(OH)D3, 1α,25(OH)2D3、1α, 25, 26(OH)3D3といったビタミンD3水酸化体を、それぞれ8, 3, 2mg/Lのレベルで生産することができた。当初、1α,25(OH)2D3の生産が目的であり、副生成物である水酸化体1α,25,26(OH)3D3の生成は望ましくないものと考えていたが、1α, 25, 26(OH) 3D3は、R体とS体ともに1α,25(OH)2D3と同等の癌細胞増殖抑制効果を保持しながらも1α,25(OH)2D3に比べて血中カルシウム濃度上昇作用が弱く副作用の少ない抗癌剤の開発という観点から期待される化合物である。

2017年04月01日

UDP-グルクロン酸転移酵素関連のテーマ

UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)は、主に肝臓小胞体に局在する膜酵素であり、生体内外の異物(薬物や環境汚染物質、食品添加物など)である脂溶性化合物にグルクロン酸を転移するグルクロン酸抱合を触媒する。ヒトにおいては食品成分(フラボノイドなど)は薬物と同様にグルクロン酸抱合をうけることから、近年、食品中の機能性成分の効能発現にはシトクロムP450と共にUDP-グルクロン酸転移酵素が重要な役割を果たすことが明らかになってきた。機能性食品工学部門におけるUDP-グルクロン酸転移酵素関連テーマの概要を以下に示す。

1. UDP-グルクロン酸転移酵素の構造と機能に関する研究

(i) UDP-グルクロン酸転移酵素特異的抗体による発現解析

ヒトUGT1分子種に対する特異的ペプチド抗体UDP-グルクロン酸転移酵素は遺伝子ファミリーを形成しており、基質特異性の異なる複数のアイソザイムが存在する。とくにUGT1遺伝子ファミリーに属するアイソザイムはアミノ酸配列上での相同性が高く精製酵素を免疫源とした方法では特異的な抗体を得ることが困難である。そこでアイソザイムに特異的なアミノ酸領域の合成ペプチドに対する抗体を作成し、UGT1タンパク発現の解析をおこなった。その結果、種々の薬物(酵素誘導剤)や発達過程において各アイソザイムが異なる発現調節を受けることを明らかにし、遺伝子レベルでの発現制御機構の解明の出発点となった。このラットUGT分子種に対する特異的抗体を用いた共同研究により、ラット雌周産期におけるプロラクチン依存的なUGT発現の周期変化やPCB誘導体による分子種特異的な発現誘導を明らかにした。これらラット分子種での抗体作成技術をもとにヒトUGT分子種に対する複数のペプチド抗体の作成に成功しており、今後ヒトにおけるUGT発現解析においてその有用性は高まるものと思われる。

(ii) 異物抱合の多様性を生み出すUGT間の相互作用の解析

異物代謝において重要であるグルクロン酸抱合化の酵素レベルでの活性調節機構の解析をおこなっている。特異的抗体を結合させた樹脂カラムを用いてUDP-グルクロン酸転移酵素アイソザイム間(UGT1とUGT2B1)の相互作用を直接的に示した。ラット及びヒトUGT分子種の酵母発現系を用いて分子間相互作用の証明をおこない、キメラタンパクでの相互作用解析よりヘテロ分子種間における複合体形成にはC末端後半領域が関与していることを示した。さらにアイソザイム間での複合体形成がグルクロン酸抱合化の活性制御に関与することを示し、小胞体膜上でのUGTタンパク質相互作用が食品成分を含めた異物代謝における基質多様性(特異性)を生み出す可能性を示した。

2. 異物代謝酵素群による食品中機能性成分の代謝解析

(i) UDP-グルクロン酸転移酵素分子種発現系による抱合代謝解析

UDP-グルクロン酸転移酵素は外界からの低分子化合物の防御機構として進化してきた解毒代謝酵素である。自然界では植物等が産生する2次代謝産物であるフラボノイドやアルカロイドなどの生体毒性をもつ化合物の解毒代謝をおこなうため進化してきたと思われる。近年では環境中に放出される種々の環境汚染物質の解毒代謝に関与することが示唆されてきた。これまで我々は特異抗体及び発現系を用いた解析により種々のUGT分子種が環境汚染物質の抱合化に関与することを明らかにした。ラット肝臓におけるビスフェノールAの抱合化には主にUGT2B1分子種が関与することを酵母発現系及び抗体阻害による実験より明らかにした。また、ダイオキシン代謝物の抱合化にはヒト肝臓のUGT分子種であるUGT1A1,1A9及び2B7が関与することを示した。さらに、ヒト、ラット、マウス肝臓、小腸で発現している主要な分子種をクローニングし酵母あるいは動物細胞を用いた分子種発現系を構築しており、さまざまな基質の抱合化に関与する分子種の同定に用いている。

(ii) 異物代謝発現酵母株を用いた代謝物調製技術の開発

生体内でつくられる代謝物の合成方法には、まず有機合成法があげられるが、開発初期における多様な化合物の網羅的な合成には困難なことが多い。また、実験動物に医薬品を投与して胆汁や尿から単離する方法があるが、数十mg程度はつくることができても、安全性確認には必要なグラム単位での製造には対応できない。そこで低コストでかつ簡便に大量の代謝物を調製する技術が望まれてきた。

1985年、榊らは出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeを宿主として薬物代謝に関与するP450電子伝達系を発現させることに成功し、ヒト由来P450分子種発現酵母を用いて様々な医薬品の代謝物を調製することが可能となった。さらに生城らはもう一つの薬物代謝酵素であるUGTを酵母にP450と同時に発現させることにより医薬品の連続的な代謝反応(水酸化及びグルクロン酸抱合)を再現した。これら発現系の細胞抽出液により代謝物の調製が可能となったが、グルクロン酸抱合反応には補基質として高価なUDP-グルクロン酸を添加しなければならず、代謝物調製に関してはコスト面の問題があった。そこで酵母内でのグルクロン酸抱合反応を可能にするために、酵母が本来持っていない酵素、UDP-グルコース脱水素酵素遺伝子を導入し、酵母の中でUDP-グルクロン酸が供給を可能な酵母株を作り出した。この酵母株を用いて菌体培養液に医薬品を添加することにより容易かつ大量に薬物代謝酵素による代謝産物を調製することに成功した。

また近年では食物から摂取したフラボノイドなどのポリフェノール類が異物として認識され、UGTによって非常に効率よく抱合体に変換された後、体外排泄されることが明らかにされてきた。さらに体内に残ったグルクロン酸抱合体を含むフラボノイド代謝物が炎症部位に蓄積し、脱抱合で産生されたアグリコンが局所的な作用を及ぼす可能性が示され、食品成分の機能性についても代謝物が重要な役割を担っている可能性が示唆されている。

以上のように、医薬品のみならず生体にとって異物と認識される化合物は薬物(異物)代謝酵素によって変換をうけて、生体にさまざまな影響を及ぼすことが明らかとなってきた。今後、酵母を含めた代謝酵素発現系を用いたヒト代謝物の調製技術はますます重要になるものと思われる。

2017年06月26日