3.窒素

森林の窒素飽和のメカニズムを追いかけています。

3-1窒素循環
一般の植物は大気中の窒素ガス(N2)を栄養として直接利用することはできません。マメ科植物など一部の植物の根に付着した菌によって固定化された窒素を吸収します。また、生物の働きや人為的な活動によって発生した物質が原因となって降雨中にはアンモニウムイオンや硝酸イオンが含まれます。それが地上に降り注ぐことによって植物が利用できる形の窒素が供給されます。また工業的な窒素の固定(ハーバーボッシュ法)により肥料が生産されます。一方、酸素の無い状態で硝酸イオンが微生物の働きによって窒素ガスになることを脱窒といい、固定された窒素が大気に戻っていきます。これら一連のを窒素循環と呼んでいます。

3-2窒素飽和
近年、各地の森林河川で、直接的な人為的汚染が無いにもかかわらず河川水中の硝酸イオン濃度が上昇する現象が報告されています。通常の森林は栄養となる窒素が不足することで成長が制限されています。従って、降雨からもたらされた窒素は森林が吸収し、河川水に流出することはありません。しかしながら、大気から降雨などによって、植物が利用できる形態の窒素が過剰に供給されると、森林から河川水に窒素が流出します。窒素飽和が進行すると森林が衰退し、森林に沈着する窒素量よりも流出する窒素量の方が多くなると考えられています。
降雨などによる大気からの窒素の沈着量が多くなる原因として、窒素循環の変化が挙げられています。近年、工業的な窒素の固定はマメ科植物などによる天然の窒素固定量を上回っているとされています。このことが窒素飽和を生み出す一因になっていると考えられています。
国内では群馬県の南西部に特に高濃度の硝酸を含む渓流水が多数見つかっています。多摩川上流部や、大阪平野周辺部でも高濃度の硝酸を含む渓流水が存在します。

3-3富山の窒素飽和
富山県の呉羽丘陵は、南北約7kmの小さな里山ですが、自然が良く保たれ、山中には多くの渓流があります。その多くは硝酸イオンを高濃度に含み、窒素飽和が進行していると考えられています。この高濃度の硝酸イオンに加え、地質上の特性もあって、呉羽丘陵では渓流水の酸性化も進行しています。


呉羽丘陵百牧谷

呉羽丘陵では次の調査を行っています。
(1) 渓流の水質調査
  定期的なサンプリング
水質の予測モデルの構築
  安定同位体比による窒素の起源の解明

(2) 土壌中の硝化菌の種類の特定
  土壌から硝化菌のDNAを抽出し、塩基配列を解析することで硝化菌の種類を調べています(PCR-DGGE法)。

(3) 森林の窒素収支の算定
降雨により森林にもたらされる窒素量と、渓流水から流出する窒素量を比較しています。

【結果】
呉羽丘陵百牧谷の硝酸イオン濃度

呉羽丘陵百牧谷の硝酸イオン濃度。人為的汚染が無い渓流水では通常は20μmol/l以下です。百牧谷では平均で160μmol/lもの硝酸イオンが流出しています。最大では500μmol/lを超過することもあります。

呉羽丘陵百牧谷の窒素収支

この図のように毎年降雨によりもたらされる窒素より多くの窒素が森林から渓流水に流出しています。通常は森林が吸収する窒素が全く吸収されないばかりでなく、放出されています。土壌中に蓄えられている窒素が供給源であると考えられます。




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